いきなりですが、養蜂家の方々で巣箱を内検していてこんなものを発見したことはないでしょうか?
今回はこの生き物が何者なのかを詳しく暴いていきます。
正体は「蛾」なのですが、ポイントとなるのが実は2種類存在することです。上の写真のように鱗粉が剥げてボロボロになってしまったものは判別することが少し難しくなりますが、極稀に綺麗な状態で見つかる場合があります。今回は私が作業中に捕獲したその綺麗な状態のものを用いていろいろ紹介していきます。
その蛾はこんな姿をしています。
後翅と腹部の黄色い模様が鮮やかですね。また、腹部の中心に走る青い線も美しいです。触ると「キィキィという感じで鳴きます」
そして、この種の最大の特徴は何と言っても「胸部背面のドクロ模様」です。
この蛾の和名はメンガタスズメといい、面(顔)のような模様を有するスズメガという意味です。
「羊たちの沈黙」という映画ではこの蛾が謎を解く重要な手掛かりになっており、ポスターにも大々的に描かれています。
学名はAcherontia styx medusaといい、属名のAcherontia(アケロンティア)はギリシャのアケロ―ン川のことを示していて、種小名のstyx(ステュクス)はギリシャ神話において地下を流れているとされる大河、あるいはそれを神格化した女神を示しているそうです。いずれの川も、古代ギリシャ神話では死を象徴する物であり、世界的に見ても不気味・不吉な蛾というイメージが強いようです。
では、次にもう1種の方を紹介していきます。
もう1種の方はクロメンガタスズメ Acherontia lachesisといい、外観はこんな感じです(少し鱗粉や毛が剥げてしまっていますがお許しください)。
上記のメンガタスズメとは同じAcherontia属ですので非常に似ていますが、いくつか判別ポイントがあります。
まずはこちら、後翅の黒帯が明らかに太いです。
和名の“クロ”メンガタスズメの由来でもあります。
そして、腹部の黄色部分の面積が小さく、青い色彩が大部分を占めております。
胸部背面のドクロ模様も異なっていて、次の写真は左がクロメンガタスズメ、右がメンガタスズメなのですが、クロメンガタスズメの方が赤や白の毛の割合が明らかに多いです。
それ以外にも、クロメンガタスズメの方がやや大きいことが多いように感じました。そこでこれらの個体の体長(頭頂~腹部先端まで)を測定してみると以下のようになりました。
・メンガタスズメ…49㎜
・クロメンガタスズメ…55㎜
やはりクロメンガタの方が大きいですね。
また、本種はもともと南方系の種で、日本では以前は九州以南でしか生息していなかったのですが、2000年前後からどんどん北上を続けて生息範囲を拡大しているそうです。実際、私も高校生の時に庭で初めて見つけ、北上の一途を目の当たりにしたことがあります。
実に強靭な脚です。
日本に生息するメンガタスズメの仲間はこの2種ですが、ヨーロッパにはヨーロッパメンガタスズメAcherontia atroposという別種が生息していて、「羊たちの沈黙」で描かれているのは実は上記の2種ではなくこちらの種だそうです。
では何故、こんな大きな蛾がミツバチの巣箱の中に入っているのか、それはこれらの蛾がハチミツを餌にしているためです。スズメガの仲間はストローのような口吻が異常に長い種が多いのですが、メンガタスズメ類は逆に非常に太短くて硬い口吻を有しています。次の写真のような感じです(ちょっとわかりずらいですが)。
採餌の際は夜間、巣箱の入り口から侵入してその硬い口吻で蜜蓋に穴をあけてハチミツを吸うらしいのですが、実際にその現場を見たことはありません。もし、養蜂家の方々でそのような現場を見たことがある方がおりましたら是非教えて頂きたいです。
しかし、この侵入の際に巣内のミツバチにばれて殺されてしまう場合が多々あるようで、冒頭の写真のものは全てそのようなミツバチの逆襲に遭ってしまったものです。そもそも、あんな大きな体をしながらどうやって小さな巣門に入り込んでいるのかも非常に謎だったりします。
私的にはクロメンガタスズメよりもメンガタスズメの方が好きなのですが、皆さんはどちら派でしょうか?
文章・写真 藪田
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